纪念写真 赤川次郎

記念写真

赤川次郎

一、本文

「すみませんが--。」

その父親が声をかけて来たとき、弓子は、よほど逃げ出そうと思った。

それとも、自分が声をかけられたと思わなかったような顔で、歩き去ってしまおうかと…。でも、だめだった。弓子の周囲にはほかにだれもいなかったのだから。

「はい。」

赤川次郎

一、正文

“对不起……。”

听到父亲的声音,弓子很想逃跑。

还是装作不知道自己被搭话的表情,走开了呢…。但是,不行。弓子周围没有其他人。

“是的。”

仕方なしに、弓子はその父親の顔を見た。いかにも吞気そうで、世の中に、苦労なんてものがあるのか、という表情をしている。

「すみませんけど、シャッターを押していただけませんか。」

断る口実も見つからないまま、弓子はそのカメラを受け取った。--これがシャッターで、ピントも露出も自動ですから。わかってるわよ、それくらい。

「お願いします。そこで四人立ってるところを、バックにあの島を入れてもらえますか。」

遠い海の真ん中に、ポカンと青い帽子のように浮かんで見える島。

弓子无可奈何地看着父亲的脸。一副满不在乎的样子,一副世上哪有什么辛苦的表情。

“不好意思,能帮我按下快门吗?”

弓子找不到拒绝的借口,收下了相机。——这是快门,对焦和曝光都是自动的。我知道,这点小事。

“麻烦你了。四个人站在那里,可以把那个岛放在后面吗?”

在遥远的大海中央,漂浮着像蓝色帽子一样的小岛。

それを父親は指さしていた。-﹣高い崖の上の展望台である。

「じゃ、よろしく!」

そう言いながら、家族の方へと戻っていく父親。そして、妻と二人の子供と並んで、弓子の方へ手を上げて見せる。弓子は、仕方なくカメラを構えた。

ファインダーの中に、「家族」がいた。「幸せ」とか、「日常」といった言葉が、そこに絵になって映っていた。

四十歳ぐらいの両親。小学生か、いや、中学生ぐらいになっているかもしれない男の子と、小学校四年ぐらいの女の子の兄妹。

父亲指着那高高的悬崖上的展望台。

“那,请多指教!”

父亲一边说着,一边走向家人。然后,他和妻子、两个孩子并肩朝弓子举起手。弓子无可奈何地举起相机。

取景器里有“家人”。“幸福”、“日常”之类的词语,都呈现在画面上。

四十岁左右的父母。一个是像小学生的男孩,不,也许是初中生和小学四年级的女孩兄妹俩。

みんな何がおかしいの?よく笑うわね、全く!馬鹿じゃないの?あんたたちは、悩むことも、苦しむことも、恨むことも忘れてる。そんなことで生きてるって言えるの?恥を知りなさいよ!

「まだですか。」

と、父親の声。

「あ-﹣今、すぐ。」

カシャッとシャッターが落ちた。ジーッとフィルムが自動的に巻き上がる。カメラもここまで自動的になって、何だか素っ気ない品物になってしまったような気がする。

「どうもすみません。」

大家有什么好笑的?你笑得真好,真是的!你不是笨蛋吗?你们忘记了烦恼,忘记了痛苦,忘记了怨恨。这样还能叫活着吗?知道羞耻吧!

“还没有吗?”

父亲的声音。

“啊——现在,马上。”

卷帘门咔嚓一声落下。胶卷自动卷了起来。摄像机自动到这种地步,总觉得变成了冷冰冰的东西。

“不好意思。”

と、父親がやって来て礼を言う。

「いいえ。」

カメラを渡し、弓子は歩き出した。そしてふっと微笑む。-さぞびっくりするだろうな。写っているのが、あの島と海だけで、四人の家族はまるきりフレームに入っていないのだから。ざまあみろ。--弓子は、背後から聞こえるその家族の笑い声に向かって、声にならない声を投げつけた。

こんなに遠くまで来たの、初めてだな、と弓子は思った。

海の風が吹いて来る展望台のレストラン。おなかがすいて、お昼を食べているところだった。--ちょっと不思議そうに弓子を眺める客がいる。平日で、そう混んでいないから、余計目につくのだろう。大体、セーラー服に靴を下げて、こんな半島までやって来ているのだ。妙に思われて当たり前である。

父亲过来道谢。

“不用谢。”

弓子把相机递给他,迈开脚步。然后微微一笑。——定很吃惊吧。因为照片里只有那座岛和大海,四口之家完全不在镜头里。活该,弓子对着背后传来的家人的笑声,发出无声之声。

第一次来这么远的地方吧,弓子想。

海风吹拂的展望台餐厅。肚子饿了,正在吃午饭。——有些客人有些不可思议地看着弓子。因为是工作日,人不多,所以更引人注目吧。而且,穿着水手服,趿着鞋子,来到这个半岛。觉得奇怪也是理所当然的。

学校は?--そんなことを聞いて来るお節介がいなくて、気が楽だもちろん、さぼって来たのよ。きっと、聞かれていれば、平気でそう答えただろう。

こんなに遠くへ来たのは初めてだが、学校を抜け出すのはいつものことだった。ただ、今日は、学校の近くをふらついて友だちなんかに会いたくなかったのだ。

学校呢?——没有多管闲事来打听这种事,心情很轻松当然,我是偷懒来的。如果被问到的话,肯定会若无其事地这么回答吧。这是我第一次来这么远的地方,溜出学校已经是家常便饭了。只是,今天不想在学校附近晃来晃去见朋友。

一人になりたかった。だから、たまたま来たバスに乗り込んで、ここまで来てしまったのである。

旨くもないカレーライスをアットいう間に平らげた。そして水をガブ飲みして、息をつくと、--あの、さっき写真を撮った一家が、すこし離れたテーブルにつくのが見えた。

「僕、ハンバーグ。」

「私、オムレツがいい。」

我想一个人静一静。所以才会搭碰巧来的巴士来到这里。

不好吃的咖喱饭转眼就吃光了。然后咕嘟咕嘟地喝了一口水,喘了口气,看到——刚才拍照的那一家人在稍远处的桌子坐下。

“我要汉堡肉。”

“我要煎蛋卷。”

メニューを見て、声を上げる。--そう、私にもあんなころがあったんだ、と弓子は思った。そのころは弓子の両親も仲が良くて…。たぶん、はた目にはあの家族と同じように見えただろう。

でも、弓子は十六歳になり、それだけ両親も年を取り、疲れていた。弓子は、他人の幸福が許せないという気持ちになっていたのだ…。馬鹿らしい。

弓子は、あの父親が、食事をしている二人を、わざわざ写真に撮っているのを見て、ちょっと鼻を鳴らした。よほど高級な店にでも入っているのならともかく、こんな観光客相手の、まずいレストランなんかで。

看了看菜单,叫了起来。——是的,我也有那样的时候啊,弓子想。那个时候弓子的父母关系也很好…。也许在旁人看来,他和那家人一样吧。

但是弓子已经十六岁了,父母也上了年纪,很累。弓子觉得不能原谅别人的幸福……。真是愚蠢。

弓子看到那个父亲特意拍下正在吃饭的两人,哼了一声。如果去的是高级餐厅也就算了,但在这种面向游客的难吃的餐厅里。

「--あと、どこに行くの?」

と、女の子が聞いていた。

「そうだな。この近くを少し歩くぐらいしかないと思うよ。」

「そう。ちょうど少し雲も出て来たしね。」

--変だな、と弓子はふと思った。あの子たち、学校はないのかしら?

もちろん、そんなこと余計なお世話なのだが。

少しのんびりし過ぎたな、と弓子は後悔していた。

“之后要去哪里?”

女孩问道。

“是啊,我想只能在这附近走走了。”

“是啊,正好也开始有云了。”

——奇怪,弓子突然想到。那些孩子没有学校吗?

当然,这是多管闲事。

弓子后悔自己太悠闲了。

みやげ物の売店を眺めていたら、雨が降って来てしまったのだ。少し待てばやむだろうと思ったのに、一向に上がる気配がない。

コーラの自動販売機の陰に、ぼんやりと立っていると、雨は一段と本格的に降って来た。

「-﹣行こうか。」

「そうね。やみそうもないし。」

聞き覚えのある声だった。あの両親である。この売店でも、また会ってしまった。

「これはどうしようか?」

「そこの-﹣自動販売機の所に置いておけば?だれか気がっくわよ。」

彼らからは、ちょうど機械の陰になって、弓子がいるのはわからなかったのだ。

「おい、行くぞ。」

我望着纪念品商店的时候,下起雨来了。原以为再等一会儿就会停了,没想到一点也没有要停的迹象。

我呆呆地站在可乐自动售货机的阴影里,雨下得更大了。

“走吧。”

“是啊,又不会停。”

是那熟悉的声音。那对父母,在这个小卖部,又遇到了。

“这个怎么办?”

“放在那边的——自动售货机那里吧?会有人注意的。”

他们正好躲在机器的背后,不知道弓子在身边。

“喂,走吧。”

父親が声をかけて、足音が雨の中へと出て行った。

ちょっと視いてみて、弓子は面食らった。あの親子四人、傘もなしで、それでいて、急ぐでもなく歩いて行くのだ。

何だ、あれ?

弓子は首をかしげた。そして--カメラに気がついた。

自動販売機の前に、カメラが置かれていて、その下に、小さな紙が折りたたんである。弓子はカメラの下の紙を拾い上げ、広げてみた。

くこれをご覧になった方へ。

誠に申し訳ありませんが、私ども一家四人、故あって、死の旅路に出ます。このカメラの中のフィルムに四人、一緒に写っているのがありますので、左記の住所の者へご連絡の上、葬儀の写真にはぜひ、その四人一緒の写真を使ってくれるようお伝え願えませんでしょうか-0)

その紙が、弓子の手から落ちた。あの四人﹣-さっき写真を撮った崖の展望台の方へと歩いて行った。

幸福的家庭幸福又愚蠢的一家…。幸福?幸福?弓子跑进雨中。猛烈的雨滴让视线变得模糊,但我毫不在意地继续奔跑。气喘吁吁地站在展望台上。在那个角落里,有面向大海,紧紧依偎在一起的四个人。就像一个人影,紧紧地依偎在一起……。

“住手!”

幸福な家族。幸福で、馬鹿みたいな一家…。幸福だって?幸福だって?雨の中へ、弓子は駆け出していた。激しく叩きつけるような雨滴で、視界が暴ったが、構わず走った。息を切らして展望台に立つ。-その隅に、海の方へ向いて、固く身を寄せ合っている四人がいた。まるで、一つの人影のように、固く、身を寄せ合って…。

「やめて!」

幸福的家庭幸福又愚蠢的一家…。幸福?幸福?弓子跑进雨中。猛烈的雨滴让视线变得模糊,但我毫不在意地继续奔跑。气喘吁吁地站在展望台上。在那个角落里,有面向大海,紧紧依偎在一起的四个人。就像一个人影,紧紧地依偎在一起……。

“住手!”

弓子は叫んでいた。四人が驚いて振り向く。

「やめてよ!あれは--あれは-﹣撮り損ないなのよ、あなたたちが写っていないんだから--だから-﹣死んじゃいけない!」

弓子は、その場に膝をついて、泣き出していた。

やがて、肩にだれかの手が触れて、弓子は雨と淚に濡れた顔を上げた。-﹣下の、女の子だった。

微笑んでいた。向こうに、父親と母親が、男の子を挟んで、抱き合って泣いている。

「死なないわ。」

と、女の子が言った。「ありがとう。」

弓子は、その女の子を、カ一杯抱きしめた。

こんなに泣き濡れて、雨に打たれて、それでも弓子は今、自分が幸福だ、と思った。

冷たく濡れた少女の体は、素敵に暖かかった…。

弓子叫道。四个人惊讶地转过头。

“不要!那个——那个——拍错了,你们没拍进去——所以——不要死!”

弓子跪在地上哭了起来。

过了一会儿,有人拍到了弓子的肩膀,弓子抬起被雨水和泪水打湿的脸。——是小女孩。

微笑着。对面,父亲和母亲抱着小男孩,相拥哭泣。

“不会死的。”

女孩说。“谢谢。”

弓子紧紧地抱着那个女孩。

虽然哭成这样,被雨淋成这样,弓子还是觉得自己很幸福。

冰冷湿漉漉的少女身体,好温暖…。

本文は『新編国語総合·現代文』(2004、大修館書店)によった。

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作者:ht
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来源:TechFM
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THE END
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