她的周围 德田秋声

她的周围

德田秋声

彼女の周囲

徳田秋聲

 彼女かのぢよの姉あねだといふ人ひとが、或ある日ひ突然とつぜん竹村たけむらを訪たづねて来きた。

 竹村たけむらには思おもひがけない事ことであつたが、しかし彼女かのぢよに若もし姉あねとか兄あにとかいふ近親きんしんの人ひとがあるなら、その誰たれかゞ彼かれを訪たづねてくるのに不思議ふしぎはない筈はずであつた。それほど「彼女かのぢよ」は不幸ふかうな位置ゐちに立たたせられてゐた。

 彼女かのぢよといふのは、竹村たけむらの若わかい友人いうじん大久保おほくぼの細君さいくん奈美子なみこのことであつた。或あるひは世間せけんで言いふ内縁ないえんの妻つまと言いつた方はう[#ルビの「はう」は底本では「ほう」]が適当てきたうかも知しれなかつたが、大久保おほくぼの話はなすところによると、奈美子なみこは彼かれの作品さくひんの愛読者あいどくしやの一人ひとりで、また彼かれの憧憬どうけいする若わかい女性ぢよせいの一人ひとりであつたところから、手紙てがみの往復わうふくによつて、さうした恋愛れんあいが成立せいりつしたらしいのであつた。竹村たけむらはその事ことについて、その当時たうじ別べつに批評ひひやうがましい意見いけんをもたうとは思おもはなかつたけれど、ずつと後のちになつて振返ふりかへつてみると、彼女かのぢよは彼かれの作品さくひんと実際じつさいの手紙てがみによつて、不運ふうんにも彼かれに誘惑いうわくされた気きの毒どくな女をんなだとも思おもへるのであつたが、しかし恋愛れんあいの成立せいりつについては、彼かれも詳くはしい事ことは知しらなかつた。

 但たゞし同棲後どうせいごの彼女かのぢよは、決けつして幸福かうふくではなかつた。恐おそらく彼女かのぢよもさう云いふ運命うんめいを掴つかまうと思おもつて、彼かれのところへ来きたのではなかつたであらう。彼かれの作品さくひんと彼かれの盛名せいめいと彼かれの手紙てがみ、乃至ないしは写真しやしんのやうなものから想像さうざうされた年少作家ねんせうさくか大久保おほくぼが、何どんなに美うつくしい幻影げんえいと憧憬心あこがれごころの多おほい彼女かのぢよの情熱じやうねつを唆そゝつたかは、竹村たけむらにも大凡おほよそ想像さうざうができるのであつた。勿論もちろん大久保おほくぼにも詩人しじんらしい空想くうさうがあつた。若わかい女性ぢよせいに対たいして、純じゆんな感情かんじやうももつてゐたから、誘惑いうわくと言いふのは当あたらないかも知しれなかつたけれど、色々いろ/\の条件でうけんと、同棲生活どうせいせいくわつの結果けつくわから見みると、彼かれの本能ほんのうが、一人ひとりのその若わかい女性ぢよせいにさういふ風ふうに働はたらきかけて行いつたのは事実じじつであつた。

 一番ばん「彼女かのぢよ」を不幸ふかう[#ルビの「ふかう」は底本では「ふこう」]にしたことは、彼かれの性格せいかくが普通社会人ふつうしやくわいじんとして適当てきたう[#ルビの「てきたう」は底本では「てきとう」]な平衡へいかうを保たもつてゐないことであつた。無論むろんこんな仕事しごとへ入はいつてくる人ひとのなかには、性格せいかくの平衡へいかうと調和てうわの取とれない人ひとも偶たまにはあつた。世間せけんから見みては、病的びやうてきな頭脳づのうや狂人きちがひじみた気質きしつの人ひともないことはなかつた。竹村自身たけむらじしんにしたところで、この点てんでは、余あまり自信じしんのもてる方はうではなかつた。勿論もちろん彼かれの仲間なかまだけが特ことにさうだとは言いへなかつた。見渡みわたしたところ、人間にんげんは皆みんな一ひとつ/\の不完全ふくわんぜんな砕片かけらであるのに、不思議ふしぎはない筈はずであつた。

 しかし大久保おほくぼの場合ばあひは、その欠陥けつかんが少すこし目めに立たちすぎた。彼かれは或ある意味いみでは誇大妄想狂こだいまうさうきやうであつたが、或ある意味いみではまた病的天才びやうてきてんさいとでも言いふべき種類しゆるゐのものであつた。病理学者びやうりがくしやや心理学者しんりがくしやでない竹村たけむらには、組織立そしきだつてそれを説明せつめいすることは困難こんなんであつたが、とにかく奈美子なみこに対たいしてふるまうた彼かれの色々いろ/\の行為かうゐだけでは、彼かれもまた一種しゆの変態性慾者へんたいせいよくしやだと思おもはれた。

她的周围

德田秋声

有一天,她的姐姐突然造访竹村。

竹村当然没有想到这一点,不过如果她有姐姐或哥哥之类的近亲,那么那个人来拜访他也就不足为奇了爬山虎“她”被置于如此不幸的位置。

她指的是竹村的年轻朋友大久保的妻子奈美子波子。也不知道世间所说的姘妇是否合适,但据大久保所说,奈美子是他的妻子。每个人都是作品的忠实读者,每个人都是憧憬的年轻女性,通过书信往来,才形成了这样的恋爱关系好像是这样。竹村当时并没有对这件事有什么特别的批评意见,但后来慢慢回想起来,发现她是他的作品。实际上,根据信的内容,他也认为那个不幸被他诱惑的恶毒女人,不过,关于恋爱的成立,他也知道得很详细。我不知道。

不过,同居后的她并不幸福。恐怕她并不是为了掌握命运才来找他的吧。从他的作品和他的盛名和他的书信,乃至照片和照片之类的东西来想象的年少作家大久保,是多么美丽的幻影和憧憬啊。憬心憧憬虽多大家的短文烧她的热情的佛法呢?当常春藤,听竹笋不均也顾学历大家可以想象的身影。大久保当然也有诗人式的空想空想。我对年轻女性有一种纯洁的感情,说是诱惑也许并不恰当,但在各种条件下,同居生活的结果从结果来看,确实是他的本能驱使着每一位年轻女性这样做。

最不幸的是“她的”是“不幸”,他的性格适合作为一个普通的社会人,普通的城市和年轻人。没有保持平衡。当然,进入这种工作的人当中,偶尔也会有性格过于平衡、不协调的人。在世人看来,也不是没有病态的头脑和狂人气质的人。竹村自己也不太相信这一点。当然,也不能说只有他的同伴特别如此。放眼望去,每个人都是不完整的碎片,应该没什么好不可思议的。

但是大久保的缺陷过于明显。从某种意义上说,他是个夸大妄想狂,但从某种意义上说,他也可以称为病态天才或天才。既不是病理学家也不是心理学家的竹村,从组织内部来说很难解释清楚,总之他对奈美子的种种表现如果只是这样的行为,就会认为他也是一种变态性欲望者。

 竹村たけむらが初はじめて奈美子なみこを見みたのは、ちやうど三月みつきほど前まへの秋あきの頃ころであつた。彼かれはしばらく奈美子なみこと同棲どうせいしてゐた郷里きやうりの世帯しよたいをたゝんで、外国ぐわいこくへわたる準備じゆんびを整とゝのへるために、その時とき二人ふたりで上京じやうきやうして、竹村たけむらの近ちかくに宿やどを取とつてゐた。彼かれは何なんとなくいら/\してゐた。彼かれは最初さいしよに博はくし得えた人気にんきが、その頃ころやゝ下火したびになりかけてゐるのに気きがついてゐた。彼かれの処女作しよぢよさくが市場しぢやうに出でたとき、まだ年としの少すくないこの天才てんさいの出現しゆつげんに驚おどろかされて、集あつまつて来きた多おほくの青年せいねんも、そろ/\彼かれの実質じつしつが疑うたがはれて来きたやうに、二人ふたり去さり三人にん離はなれして、輝かゞやかしかつた彼かれの文壇的運命ぶんだんてきうんめいが、漸やうやくかげりかけようとしてゐたところで、彼かれもちよつと行ゆきづまつた形かたちであつた。彼かれはじつとしてゐられなかつた。失うしなはれようとする人気にんきを取返とりかへさうとして、彼かれは更さらに世界的せかいてきに自己じこを宣伝せんでんして、圧倒的あつたうてきに名声めいせいを盛返もりかへさうと考かんがへた。

「三年ねばかりあちらで学校がくかうへ入はいりたまへ。そしてみつちり勉強べんきやうして来きた方はうがいゝね。」竹村たけむらはさう言いつて、作家さくかとしてよりも、寧むしろもつと広ひろい意味いみの修業しゆげふを彼かれに要望えうばうした。政治学せいぢがくとか社会学しやくわいがくとか、さう言いつた意味いみでの修養しうやうが、むしろ彼かれに新あたらしい広ひろい道みちを開ひらいてくれるだらうと思おもつた。彼かれの特異とくいな恋愛病れんあいびやうが、作品さくひんの重おもなる要素えうそであることが、後のちになつて竹村たけむらにもわかつた。余あまり大おほきかつた文壇的名声ぶんだんてきめいせいに囚とらはれてゐたことも分明はつきりして来きた。勿論もちろん学窓がくそうなどに落着おちついてはゐられなかつた。事ことによると、彼かれは世間せけんが思おもつてゐるほど、経済的けいざいてきに恵めぐまれてゐなかつたのかも知しれなかつた。そしてその方はうが寧むしろより多おほく、彼かれをあせらせてゐたかも知しれなかつた。

「僕ぼくはね竹村氏たけむらし、決けつして悲観ひくわんして洋行やうかうするんぢやないんですよ。」彼かれは弁護べんごした。

「誰某たれそれの輩はいが、行詰ゆきづまつた果はてに、箔はくをつけに行ゆくのと、同おなじだと思おもはれると、大変たいへんな間違まちがひなんだ。」

 一緒しよに飯めしなぞ食たべると、彼かれはいつでも心こゝろの空虚くうきよを訴うつたへるやうな調子てうしでありながら、さう言いつて寂さびしい顔かほに興奮こうふんの色いろを浮うかべてゐた。

 奈美子なみこは普通ふつうの学校出がくかうでの文学好ぶんがくずきな女をんなであつた。大久保おほくぼから見みせられた彼女かのぢよの手紙てがみによると、彼女かのぢよがしをらしくも彼かれの愛あいに縋すがらうとしてゐる気持きもちが、偽いつはりなく露出ろしゆつしてゐたが、今いま彼かれにつれられて目めの前まへに現あらはれた彼女かのぢよを見みると、まるで狂暴きやうばうな鷲わしの前まへにすゑられた小鳥ことりのやうに、おとなしく小ちひさくなつてゐた。ふとした拍子ひやうしに、縁側ゑんがはの障子しやうじの硝子戸ガラスどごしに見みえた竹村たけむらの幼児えうじに、奈美子なみこはふと微笑ほゝゑみかけた。

 大久保おほくぼはちらとそれを見みると、いきなり険悪けんあくな目めをして、「ちよツ」と苛々いら/\しげに舌したうちしながら、拳こぶしをかためて、彼女かのぢよの鼻梁はなばしらを火ひが出でたかと思おもふほど撲なぐりつけた。奈美子なみこは目めを潤うるませて、悲かなしげにうつむいた。

「何なんだつてそんな真似まねをするんだ。」竹村たけむらはたしなめた。

 大久保おほくぼは冷笑あざわらつた。

「こいつがいけないんだ。こんなものは是これで沢山たくさんだ。」

 竹村たけむらは呆あきれてしまつた。彼かれは郷里きやうりの新聞しんぶんで、大久保おほくぼが奈美子なみこを虐待ぎやくたいして、警察けいさつを煩わづらはしたなぞの噂うはさを耳みゝにしてゐたが、それも強あながち新聞記者しんぶんきしやの誇張こちやうでもなかつたやうに思おもへた。

 その後ご大久保おほくぼの言いふところによると、彼女かのぢよはその兄あにと肉的関係にくてきくわんけいがあるといふのであつた。そしてその因果いんぐわな報むくいを彼かれのところへ持込もちこんで来きたといふのであつたが、竹村たけむらには信しんじられなかつた。彼かれはその姉あねの訪問はうもんによつて、その身柄みがらや教養けうやうの程度ていどを、ほゞ推察すゐさつすることが出来できた。

 今いま竹村たけむらはその姉あねに初はじめて逢あつたのであつた。

 姉あねは小柄こがらの、美うつくしい愛あいらしい体からだと顔かほの持主もちぬしであつた。嫻みやびやかな落着おちついた態度たいどや言語げんごが、地方ちはうの物持ものもちの深窓しんそうに人ひととなつた処女しよぢよらしい感かんじを、竹村たけむらに与あたへた。趣味しゆみの高雅かうがな、服装ふくさうだけでも、十分ぶんそれが証明しようめいされた。その妹いもうとの奈美子なみこが、何どうして大久保おほくぼのところへ身みを寄よせるやうになつたかは、何どう考かんがへてみても、竹村たけむらにはわからなかつた。奈美子なみこにいくらか暗くらい影かげがあるやうにも思おもへたが、また全まつたく純真じゆんしんであるやうにも思おもへた。

「あいつは己おれの財産ざいさんに惹着ひきつけられてゐるんだ。」大久保おほくぼはいつかさう言いつてゐたけれど、竹村たけむらには其意味そのいみが全然ぜんぜん不可解ふかかいであつた。

「大久保おほくぼのことを、少すこし先生せんせいにお伺うかがひしたいと存ぞんじまして、お邪魔じやまに出でましてございますが、先生せんせいには何なにもかもお解わかりでせうと思おもひますけれど。」姉あねはさう云いふ風ふうに言いふのであつた。

「まあ、大概たいがいのことは判わかつてゐるつもりですが、貴女あなたの側がはからなら、大久保おほくぼの生活せいくわつがいつそ詳くはしく判わかつてゐる筈はずぢやないですか。」

 彼女かのぢよの口くちの利きき方かたは、少すこし内気うちきすぎるほど弱々よわ/\しかつた。そしてそれについて、別べつにはつきりした返事へんじを与あたへなかつたが、わざと遠慮ゑんりよしてゐるやうにも見みえた。

「私わたくしにも説明せつめいのしやうがないんです。聞きくところでは、宿やどでも問題もんだいになつてゐるらしいんです。この頃ころ外そとへ出でれば、きつと連つれてあるいてゐますが、宿やどでも少すこしも目めを放はなさないやうです。虐待ぎやくたいはずゐぶん酷ひどいやうです。或晩あるばんなぞ、鉄瓶てつびんの煮湯にえゆをぶつかけて、首くびのあたりへ火焦やけどをさしたんでせう。さすがに驚おどろいて、私わたしのところへやつて来きたんです。打ぶつたり蹴けつたりするのは、始終しじうのことでせう。私わたしも言いつても見みましたけれど、頭脳あたまが普通ふつうぢやないやうです。お兄あにさんもお有ありのやうですが、何どうしてあれを傍観ばうくわんしてゐらつしやるのかと、寧むしろ不思議ふしぎに思おもつてゐるくらゐです。」

「それも考かんがへてをりますけれど、あんな方かたですから、問題もんだいにするには、表沙汰おもてざたにするより外ほかございません。さうすれば自然しぜんあの方かたのお名前なまへにも傷きずのつくことでございますから、船ふねにお乗のりになるまで、我慢がまんしてゐた方はうが、双方さうはうの利益りえきだらうと、兄あにもさう申まうしますものですから。」

竹村第一次见到奈美子,大约是三个月前的秋天。他离开了与奈美子同居过一段时间的老家,为了去国外做准备,两人一起去了东京。附近订了旅馆。他好像很烦躁。他注意到一开始博得的人气,在那个时候开始走下坡路了。他的处女作在市场上出版的时候,这位年纪尚小的天才的出现让许多北方的青年都为之震惊。然而,他的怀疑渐渐消散了,来来去去,三三两两,他那曾经辉煌灿烂的文坛命运,在渐渐暗淡下来的时候,他也步履蹒跚,举步维艰。形状很好。他实在无法忍受。为了挽回失去的人气,他打算进一步在全世界范围内宣传自己,使自己的名声得到压倒性的提升。

“我在那边上了三年的学,然后在那里上了密智利学。”竹村这么说着,与其说他是作家,不如说他希望他能成为更广泛意义上的修业者。我想,政治学、社会学等意义上的修养,反而会为他开辟一条新的广阔道路。后来竹村也明白了,他那特异的恋爱病,其实是作品的多重要素。太过张扬的文坛名声,拘泥于文坛名声,这一点也清楚起来了。当然,不能安安稳稳地待在教室里。由此可见,他在经济上或许并不像世人所想的那样富裕。而那个人,也许更让他着急了。

“我啊,竹村先生,决不会悲观地去留洋的。”他做了辩护律师。

“你们这帮家伙,如果认为这和去镀金是一样的,那就大错特错了。”

一起吃饭的时候,阿宫总是一副倾诉内心空虚的样子,说着说着,寂寞的脸上浮现出兴奋的神色。

奈美子奈美子毕业于普通学校,是个爱好文学的女人。从大久保给她的信中可以看出,她对爱的依赖毫不掩饰,现在她带着她去了。出现在眼前的她,就像被狂暴的老鹰吞食的小鸟一样,温顺娇小。一个偶然的机会,隔着檐廊的纸拉门和玻璃窗看到了竹村的孩子,奈美子微微一笑。

大久保瞥了一眼,立刻露出凶恶的眼神,焦躁地咂着舌头,握紧拳头,仿佛要把她的鼻梁喷出来似的。揍了一顿。奈美子奈美子眼眶湿润,悲伤地低下头。

“你干什么呢?”竹村责备道。

大久保冷笑道。

“是这家伙不好,这样的东西已经够多了。”

竹村呆住了。他在家乡的报纸上听说大久保虐待奈美子,让警察不胜其烦的传闻,但那也只不过是新闻记者的夸张报道罢了。我觉得没什么大不了的。

后来大久保说,她和她哥哥有肉体关系。他说是把报应带来给他的,竹村并不相信。通过姐姐的来访,可以大致推测出她的身份和教养程度。

竹村是第一次见到姐姐。

姐姐身材娇小,长着一张漂亮可爱的脸蛋。娴淑的举止和语言,给竹村一种娴静的感觉,她是一个出身偏僻的深闺女子。爱好高雅,衣着讲究,就足以证明这一点。竹村怎么想也想不明白妹妹奈美子为什么会投靠大久保。奈美子觉得奈美子多少有些阴暗,但又觉得她纯真自由。

“那家伙是被我的财产吸引了。”大久保曾经这么说过,但竹村完全无法理解其中的意思。

“我想请教一下大久保的事情,所以才来打扰您,我想您应该什么都明白。”姐姐这样说。

“嗯,大体上的事情我都知道,不过,如果你是这样的话,大久保的生活情况应该什么时候能详细了解才对。”

她说话的方式软弱得有点过分害羞了。对此,他并没有给出明确的答复,但看上去也像是故意不太客气的样子。

“我也没办法解释,据我所知,旅馆里好像也出了问题。最近一到外面,他一定会带着他一起出去,即使在旅馆里,他的眼睛也丝毫不眨一下,虐待的程度也很严重。一天晚上,他把水壶里的热水泼到脖子上,脖子被火烧了,吓了一跳,跑到我这里来。拳打脚踢是常有的事,我也说过,但他的头脑似乎不太正常。哥哥好像也有这种情况,但为什么要袖手旁观呢,我甚至觉得不可思议。”

“这个我也想过了,不过他那样的人,要把他说成是问题,也只能公开了。一来,自然也会影响到那位先生的名声,所以在他上船之前,我一直忍耐着,哥哥也说这对双方都有好处所以。”

 竹村たけむらはその温順おとなしさと寛容くわんようなのに面喰めんくらはされてしまつた。彼女かのぢよの軟やはらかで洗煉せんれんされた調子てうしから受取うけとられる感情かんじやうで見みると、しかし其その考かんがへ方かたが、極きはめて自然しぜんに見みえるのであつた。

「まさかあれ以上いじやう兇暴きようばうな真似まねもできないでせうと思おもひますが……。」

「さうですか。貴方あなたがたがさう云いふ目めで見みてゐられるとすれば、大久保おほくぼに取とつても幸福かうふくです。お妹いもうとさんがじつと我慢がまんしてゐられるのも、なか/\だと思おもひますね。」

「妹いもうとも一度ど逃にげだしたんですけれど、やつぱり掴つかまつてしまひました。ちやうど大森おほもりの鉱泉宿くわうせんやどへつれられて行いつたときのことでした。あの人ひとが一ひと足先あしさきへお風呂ふろに行いつた隙すきを見みて、足袋跣足たびはだしで飛出とびだしたんださうでございますの。それで駈出かけだして、車くるまでステーションまで来きて、私わたくしのところへ逃にげこんでまゐりました。その時ときもずゐぶん酷ひどい目めにあはされたらしうございます。妹いもうとも自分じぶんのした事ことでございますから、余あまり露骨ろこつには申まうしませんですけれど、駈かけこんでまゐりました時ときの、顔かほの色いろといふのはございませんでした。息いきも切きれさうに弱よわつてをりました。お話はなしは後あとでするから、少すこし寝ねかしてくれと申まうしますので、そつとしておきました。

 すると間まもなく大久保おほくぼが自動車じどうしやで乗のりつけてまゐつたんでございますの。いきなりづか/\と上あがり込こみまして、妹いもうとも引起ひきおこして、まあ何なんとか彼かとか言いつて、また連つれ出だしてしまひまして……。何なにしろちよつとの隙すきも与あたへませんものですから。或ある時ときは、警察けいさつへ飛込とびこんでもみたさうですけれど、大久保おほくぼさんの仰おつしやることが、やはり真実しんじつらしく聞きこえたものでせうか、その時ときも連つれ戻もどされてしまひました。」

「何なにしろ腕力わんりよくがあるから敵かなひませんね。それに兇器きようきももつてゐるやうです。洋行やうかうするときの護身用ごしんようにと買かつたものです。一緒しよにあるいてゐると、途中とちう時々とき/″\ぬかれるんでね。あの目めも無気味ぶきみです。宅たくへくれば、お妹いもうとさんは大抵たいていの場合ばあひ、玄関外げんくわんそとに立たたしておくやうです。家内かないもいくらかお話はなしを伺うかゞつてるさうですが、うつかりした事ことを言いへば、祟たゝりがおそろしいんでせう、余あまり口くちは利きかれないさうで。」

 竹村たけむらもそれ以上いじやう聞ききも詰なじりもしたくなかつた。彼女かのぢよも大抵たいてい様子やうすがわかつたらしかつた。

 大久保おほくぼが出発しゆつぱつしてから間まもなく、彼女かのぢよがまたやつて来きた。その顔かほは目めに立たつて明あかるくなつてゐた。話はなしも前まへよりははき/\してゐた。

 竹村たけむらは大久保おほくぼが出発前しゆつぱつぜんに奈美子なみこをつれこんでゐた下町したまちの旅館りよくわんで――それにも多少たせうの宣伝的意味せんでんてきいみがあつたが、そこで或ある夜よなかに、鞘さやごと短刀たんたうで奈美子なみこの脊中せなかを打うつたなぞの話はなしを、その時とき彼女かのぢよから聞きいた。鞘さやが割われて、刃はが肉にくを切きつたといふのであつた。

「幸さいはひに大たいしたことはございませんでしたけれど。」彼女かのぢよは内輪うちわに話はなすのであつた。

 大久保おほくぼが、奈美子なみこの美うつくしい髪かみを、剃刀かみそりや鋏はさみでぢよき/\根元ねもとから全まつたく切きり取とつてしまつたことは、大分だいぶたつてから知しつた。奈美子なみこは白しろい布きれで頭あたまをくる/\捲まいて、寂さびしい彼かれの送別そうべつの席せきにつれ出だされて、別室べつしつに待またされてゐたことなぞも、仲間なかまの話柄わへいに残のこされた。

 竹村たけむらはその時とき姉あねなる彼女かのぢよの身みのうへを、少すこしきいてみた。彼女かのぢよは東京とうきやうの親類しんるゐに身みを寄よせて、女学校ぢよがくかうを出でてから、語学ごがくか音楽おんがくかを研究けんきうしてゐるらしかつた。大久保おほくぼがベヱトベンのシムホニーなぞのレコードを買かつたのも、奈美子なみこが音楽好おんがくずきだからであつた。

 竹村たけむらは一年ねんたつかたゝないうちに、大久保おほくぼの帰かへつて来きたのに失望しつばうしたが、大久保おほくぼの帰朝きてうの寂さびしかつたことも、少すくなからず彼かれを傷いたましめた。大久保おほくぼは出発前しゆつぱつぜんよりも一層そうあせつてゐたが、先まづ訪おとづれたのは、やはり竹村たけむらであつた。彼かれはロンドン仕立じたての脊広せびろを着きこんでゐただけで、一年ねん前まへの彼かれと少すこしも変かはつたところはなかつた。しかし彼かれの言葉ことばには傾聴けいちやうすべき事ことも少すくなくはなかつた。

 驚おどろいたことには、虎とらの子このやうに大切たいせつにしてゐるウェルスの手紙てがみなど入いれた折鞄をりかばんのなかから、黒髪くろかみの一ひと束たばと短刀たんたうとが、紙かみにくるんで、紐ひもで結いはへられたまゝ、竹村たけむらの前まへに引出ひきだされたことであつた。

「何なんだい、そんな物ものまで持もちあるいてゐたのか。」

「これも今いまとなつてみれば、何なんでもない。船ふねから海うみへ棄すてようかと思おもつたけれど、到頭たうとうまた日本にほんへ持もつて帰かへつた。」

 大久保おほくぼはさう言いつて、笑わらつてゐた。

 竹村たけむらと奈美子なみことの交渉かうせふもそれきりであつた。一度ど遊あそびに来くるやうにと、竹村たけむらはくれ/″\も勧すゝめられた。そして田舎ゐなかへ帰かへつてから、慇懃いんぎんな礼状れいじやうも受取うけとつたのであつたが、無精ぶしやうな竹村たけむらは返事へんじを出だしそびれて、それ限きりになつてしまつた。

「とにかくあの人達ひとたちの仕方しかたは賢かしこかつた。」彼かれは時々とき/″\思おもつた。大久保おほくぼのやうな稚気ちきの多おほい狂人きちがひを相手取あいてどることに、何なんの意味いみのあらう筈はずもなかつた。

(大正14年7月「婦人の国」)

竹村性格温厚、宽容,却被人吃了一惊。她那柔嫩、洗练的语调,仿佛从牛那里接收到的感情一样,可是,她的思考方式,却显得极其自然。

“我想应该不会比她更凶暴吧……。”

“是吗?如果你们能以这样的眼光看待我的话,对大久保来说也是幸福的。妹妹一直忍耐着,我想也算是其中之一吧。”

“我妹妹也逃过一次,但还是被抓住了,那天晚上被带到大森温泉旅馆的时候。趁那个人先走一步去洗澡的空当,光着袜子跑了出去。他开车跑到车站,逃到我这里来,当时好像也吃了不少苦头。妹妹也是自己做的事,所以不会太露骨地说出来,不过,她没有跑进来时的脸色。气喘吁吁地虚弱着,她说过一会儿再跟我说话,让我再睡一会儿,我只好作罢。

不久,大久保就开着汽车来了。一下子就爬了上去,把妹妹也拉起来,说着什么什么是他,又把妹妹拉了出去……。一点空隙都没有。有一次,他还跑去警察局报案,可是大久保先生说的话听起来好像是真的,当时他也被带回来了。”

“不管怎么说,他很有力气,是我的敌人,而且好像还带着凶器,这是我出国留学时买的防身用的。一起走着走着,有时会走到半路上。”她的眼睛也很吓人。回家的时候,妹妹一般都站在玄关外面。我太太也想听我说几句话,但我怕说些令人郁闷的事,会招来祸根,所以不太好说话。”

竹村也不想继续追问和责难。她的样子也大致不同。

大久保出发后不久,她又来了。那张脸很显眼,很开朗。谈话也比以前更干脆了。

竹村住在大久保出发前带奈美子去的下町旅馆里——这多少带有宣传的意味,一天夜里,刀鞘那时候,他从奈美子那里听说有人用短刀刺她背部的事。刀鞘裂开,刀刃割肉。

“幸好没有什么大碍。”她在私下里说着。

很久以后我才知道,大久保用剃刀和剪刀把奈美子那美丽的头发从发根彻底剪掉了。奈美子用白布卷着头,被拉到寂寥的送别席上,在另一个房间里等着,这事在朋友们的议论中还残留着。

竹村向姐姐打听了一下她的身世。她寄居在东京的亲戚家里,从女子学校学歌毕业后,学习语言和音乐。大久保买了贝耶特本的唱片,也是因为奈美子喜欢音乐。

不到一年,大久保回来了,竹村失望极了,而大久保回来后的冷清也多少伤害了他。大久保比出发前说得更急了,先来拜访的果然是竹村。他只是穿着一套伦敦缝制的西装,和一年前相比没有丝毫变化。但他的话中也有不少值得倾听的地方。

令人吃惊的是,从包里拿出一个折包,里面装着像虎子一样宝贝的维鲁斯的信,里面有一束黑发和短刀,用纸包起来,用绳子绑起来。被拉到竹村面前。

“什么呀,连这种东西都带在身上啊。”

“现在看来,这也没什么大不了的,我本想把它从船上扔到海里去,但最后还是把它带回了日本。”

大久保笑着说。

竹村和奈美子波子的交涉也到此为止。竹村劝我来玩一次。”回到乡下后,竹村收到了一封殷勤的感谢信,但懒惰的竹村却迟迟没有回信,就这样不了了之了。

“总之,那些人的做法很聪明。”他有时会这样想。”像大久保这样稚气未脱的疯子与火为敌,不可能有任何意义。

(大正14年7月《妇人之国》)

文档关键内容总结:

核心人物关系与背景

故事围绕大久保、奈美子(他的妻子)以及竹村之间的复杂关系展开。奈美子是大久保通过书信往来建立恋爱关系的年轻女性,但同居后生活并不幸福。

奈美子的姐姐突然造访竹村,揭示了更多关于奈美子的家庭背景和她与大久保的关系。

奈美子的不幸处境

奈美子被描述为一个温顺、纯真的女性,但在与大久保的同居生活中遭受虐待,包括身体暴力(如被打、被热水烫伤)和精神压迫。

她曾试图逃离,但被大久保抓回,并在公共场合(如旅馆)受到严格监视。

大久保的性格与行为

大久保被刻画为一个病态的天才,具有夸大妄想和暴力倾向。他对奈美子的虐待不仅体现在身体上,还包括对她外貌的破坏(如剪掉她的头发)。

他表现出极端的控制欲,甚至随身携带短刀和奈美子的头发作为“纪念品”。

竹村的角色与观察

竹村是故事的叙述者,也是大久保的朋友兼导师。他对大久保的行为感到失望,同时也对奈美子的处境表示同情。

竹村通过与奈美子姐姐的对话,进一步了解了奈美子的遭遇,并对大久保的疯狂性格有了更深的认识。

社会与家庭的影响

奈美子的姐姐试图通过隐忍和妥协来保护妹妹,但她对大久保的行为也感到无奈和愤怒。

社会对这种关系的态度较为复杂:一方面有人对大久保的行为表示谴责,另一方面又因他的名声而选择沉默。

结局与反思

大久保出国留学归来后,性格更加急躁,但依然没有改变对奈美子的控制和虐待。

竹村最终意识到,像大久保这样的“疯子”无法用理性沟通,奈美子的处境也难以改变,整个事件充满了悲剧色彩。

总结概述:

这篇文字讲述了奈美子在与大久保同居期间所遭受的身体和精神虐待,以及周围人对此的反应。通过竹村的视角,揭示了大久保的病态性格和对奈美子的极端控制,同时反映了当时社会对女性处境的漠视与无奈。整篇文章以细腻的笔触描绘了一个充满悲剧色彩的爱情故事,展现了人性中的复杂与矛盾。

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作者:lichengxin
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来源:TechFM
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